Chapter 08 — Taste
第八章 味覚
感じた味を、言葉にする。
01“味” は3つの足し算
私たちが「味」と呼ぶものは 風味(flavor)=舌の味+鼻の香り+口当たりの統合。舌だけでは味は決まらない。
02香りは2つの経路で届く
同じコーヒーでも、嗅ぐ時と飲む時で香りの感じ方が違う。経路が別だから。
カップに鼻を近づけて 吸い込む 香り(立ち香)
飲む前の第一印象。淹れた瞬間に強い
飲んだ後、口の奥から鼻へ 抜ける 香り(口中香)
“風味” の主役。余韻・後味はほぼこれ
嗅ぐ香りと飲んで抜ける香りは別物。両方を意識すると描写が一段細かくなる。
03五大味覚とコーヒー
舌が感じる味は五つ。コーヒーは 甘味・酸味・苦味 が主役で、塩味とうま味はごく僅か。
04甘み と 苦みの由来
同じ豆でも、焙煎のどこで止めるかで甘苦の比率が変わる。
豆の 糖分(ショ糖) + 焙煎の カラメル化・メイラード反応
浅〜中煎りで残りやすい=“焙煎前半” の産物
クロロゲン酸の分解物(ラクトン等)+ カフェイン
焙煎が深いほど増える=“焙煎後半” の産物
甘みは素材+焙煎前半、苦みは焙煎後半。どこで止めるかで決まる。
05“甘い” のに砂糖はほぼ無い
焙煎で豆の糖の大半は反応・分解され、できあがったコーヒーに残る 実際の糖はごく僅か。それでも「甘い」と感じるのは、甘さの正体が 香り+余韻 だから。エステルやアルデヒドが生む フルーティ・カラメル様の香り が、脳の中で “甘い記憶” と結びつく(=クロスモーダル=感覚の連合)。だから甘さは「舌で増やす」より 甘い香りを残す焙煎・抽出 で引き出す。苦味・渋みが立つと甘さはマスクされて感じにくくなる。
06ボディ と コク の違い
どちらも “味” そのものではなく 感じ方。混同しやすいので分けて覚える。
液体の とろみ・密度・舌ざわり(軽い ⇄ 重い)
イメージ=無脂肪乳 → 牛乳 → 生クリーム の重さの差
甘・苦・酸とボディと 余韻・香り が重なった奥行き
イメージ=ビターチョコ・赤ワインの余韻 の複雑さ
コク ≠ うま味。うま味は五基本味の一つ、コクは多要素が積み重なった知覚。コーヒーのうま味は僅かで、コクの正体は厚み+広がり+余韻。
07ボディ と コク は何で決まる
ボディは物理(中身)で、コクは知覚(積み重ね)で決まる。
ボディ=器具・濃さ/コク=バランス・余韻・焙煎。メラノイジン=焙煎でできる褐色の高分子で、香ばしさ・とろみのもと。
08温度で味は変わる
同じ一杯でも、熱い時と冷めた時で別の表情になる。淹れた直後と数分後、両方を味わうと豆の輪郭がつかめる。
甘味は約44℃、苦味は約56℃で最も強く感じるという報告も。冷めて “酸っぱく” 感じるのは酸が増えたのではなく、苦味の蓋が外れて元々の酸が見えるから。
09コーヒーの酸 6種
酸味は欠点ではなく 豆の個性。種類で表情が違う。
10酸とマリアージュ
似た風味で “同調”、対照的な風味で “引き立て”。
ペアリングに正解はない。まず酸の種類を見極めてから合わせる。
11欠点フレーバーと原因
“個性的な酸” と “欠点” は別物。欠点は 不快で再現性なく、原因が工程にある。覚えておくと「これは個性か事故か」を切り分けられる。
12香りはどこから来るのか
コーヒーの香りの正体は 揮発性成分(空気に混じって鼻に届く分子)。焙煎されていない生豆はほぼ無臭で、香りは 焙煎中に作られる。メイラード反応・カラメル化・ストレッカー分解で、ピラジン(香ばしさ)・フラン(カラメル様)・アルデヒド(フルーティ)などが一気に生成される。ローストコーヒーには 1000種以上 の揮発性成分が見つかっているが、香りに効く主役は そのうち数%ほど。だから「香りを作る」のは抽出ではなく、まず焙煎の仕事。
SCA フレーバーホイール
感じた味を言葉にするための地図。中心=大まかな印象(フルーティ/甘い/焙煎…)から、外周=具体的な言葉(ベリー/チョコ/柑橘…)へ絞り込む。どこで止めてもいい。
2016年に SCA と World Coffee Research が共同で作った、世界共通の “味の語彙”。中→外に降りていくほど描写が具体的になる。
14カッピングの手順(SCA)
目的=同じ条件で淹れ、味を客観的に比較・評価する(品質管理・選別)。
15カッピングで見る項目(SCA)
“おいしい/まずい” でなく 項目ごとに分けて 点を付ける。100点満点で 80点以上が “スペシャルティ”。各項目を意識すると、ふだんの一杯も言葉にしやすい。
他に Sweetness・Clean Cup・Uniformity・Overall も評価する。各項目を 6〜10点で採点し合計する。
香りは口から鼻へ抜ける(レトロネーザル)
味の 約8割は香り。強くすすると液が霧状になり、口の奥から鼻へ抜けて(=レトロネーザル/口中香)、鼻の奥の嗅細胞に届く。
16なぜ “すすって、じっと” するの?
味の 約8割は香り。強くすすると液が霧状になり、口の奥から鼻へ抜けて(=レトロネーザル/口中香)、鼻の奥の嗅細胞に届く。届くまで一瞬かかるので、すすった後は口をパクパクさせず、鼻から静かに息を抜く。口を動かすと気流が乱れ、香りが届かず正しく感じられない。